日本一の監督対談
夏の甲子園(2013)初出場・初優勝×冬の高校サッカー(2017)全国制覇
ふたりの日本一の監督が「監督とは」「前橋育英の魅力とは」...を語ります。
山田 耕介
前橋育英高等学校 校長
男子サッカー部 監督
●監督としての使命とは...
【山田】サッカーのうまい下手よりも、人間として立派にやっていけるかが大事だと思っています。「サッカーは子どもを大人にするし、大人をジェントルマンにする。その手助けをするのが、監督の仕事。」これは、日本サッカーの父と称された、ドイツのデトマール・クラマーさんの言葉であり、私の師匠である小嶺監督からもらった言葉でもあります。スポーツを通して、規律や思いやり、感謝の心を学んで大人になっていき、大人がさらに立派になっていく。そこを一番大事にしています。
【荒井】私も、チームづくりは人づくりだと思っていますね。この人と一緒に仕事がしたいと思われるような人になってほしいです。高校を巣立った後からの人生の方が圧倒的に長いですし、野球がちょっとうまくても世の中に出たら、何にも役に立たないですから。自主的に感じて動いて、人の役に 立つ人間になるためには、どうすべかを学んでもらうことが大事だと思っています。
【山田】そうだね。もちろん、勝負に関しては戦術があり、技術も必要になってくるけれど、もっと大切なのは、人間力。いつも使う言葉に、(技術+身体能力)×人間力があります。つまり、技術や身体能力があっても、人間力がゼロだったら、すべてゼロになるということ。人間力は、気づく力や思いやり、優しさ、強さ、人の話を聞けること、自分の考えをきちんと表現できることなどで、サッカーにおいても、人生においても、この人間力が必要だと思っています。
【荒井】まったく同じですね。やるからには勝ちたいですし、甲子園に行きたい、甲子園で優勝したいと、常に思っています。ただ、それだけではない。試合に出て活躍することだけではなく、ベンチの選手もスタンドの選手もそれぞれにいろいろな役割があり、チームとして、どれか一つ欠けてもダメなんだと、生徒によく話をしますね。
●監督になったきっかけ
【山田】高校時代の恩師、小嶺監督の影響が大きいですね。いい指導者がいることによって、いい選手は 絶対に育つということを学びました。小嶺監督の熱意と愛情は本当にすごかった。教職をとって高校で サッカーの指導者になろうと、大学2年のとき、決めました。
【荒井】現役時代はまったく指導者になるという気持ちはありませんでした。高校を出て社会人チームに入って、31 歳まで現役で野球をやらせてもらい、その後、母校から監督に誘っていただきました。実は、僕は人見知りで、今でも人前で話すのは得意ではありません。確かに、最初はうまくいかなかったことの方が多かったですね。そのうち、前橋育英でお世話になることになって。そのころ、出会ったのが「凡事徹底」という言葉でした。本物とは中身の濃い平凡なことを積み重ねること。この言葉こそ、求めていた言葉だと感じて、以来、座右の銘にし、監督となった前橋育英硬式野球部のスローガンにしました。
【山田】凡事徹底。奥が深い。いい言葉 だね。
●理想の監督像
【山田】現役の頃から、監督の言葉が絶対というようなファシズムは大嫌いでした。サッカーに絶対はない。これをやれば絶対いい選手になるとか、絶対に優勝するとか、絶対はありっこない。日々の積み重ねしかないのです。だから、コミュニケーションをよくとることを大事にしています。
【荒井】そうですね。現役時代、高校を含めて6人の監督の下で野球をやってきて、そのいいところを理想の監督像にしています。山田監督とまったく同じで、監督の言葉が絶対とか、頭ごなしにするのは嫌ですね。ガツンとやると、裏表のある生徒になってしまうと思っています。
【山田】そうですね。
【荒井】グラウンドでも教室でもどこでも態度が変わることなく一緒というような人間になってほしい。一人ひとりとコミュニケーションをとって、大人にもきちんと話ができるということを大事にしたいなと思います。
●考えるサッカー・考える野球
【山田】サッカーの試合では、選手たちに私の声はなかなか聞こえません。話ができるのはハーフタイムだけ。リズムが悪い時は、「とにかくハーフタイムになってほしい」と思うものです。だから、試合には相当の準備をして、選手たちを送り出します。あとは、選手たちが自分たちで話し合い、判断していく。自分たちで考えて判断してプレーする部分がサッカーには必要になってきます。
【荒井】私も選手同士で会話をどんどんさせますね。練習前も試合が終わってもまず、選手同士で話をさせて、それから私が話をしています。
【山田】われわれの仕事、つまり、教育というのは、自分で判断して自立していく、そこまでできるような人間に育てていくこと。監督やコーチから言われてから話し合いをするのではダメなのです。
【荒井】そうですね。選手同士で感じたものを大事にさせたいです。
【山田】可能性を引き出すことが、われわれの一番の仕事なのかもしれないですね。その可能性をサポートしていくこと。学校も同じ。生徒にはそれぞれ長所があり、短所がある。長所を引き出して、その良さを伸ばしていく。そこには無限の可能性があるので、それを伸ばしていく学校でありたいですね。
●生徒へ伝えたいこと
【荒井】高校野球の監督になって、本当に良かったと感じています。甲子園という目指す舞台があるのもそうですけど、生徒たちの成長する姿を見られるというのも一つの魅力なのかなと思いますね。誰かのために、チームのためにとか、人間だけが人のために役立っていることに喜びを感じられると思うのです。高校野球もそうですし、日々の活動を通じて学んでいってほしいと思います。それを伝えられるのが高校だと思っていますね。
【山田】そうですね。高校3年間は、本当に成長、進化できる時間です。こんなに成長するのかと感心してしまうほどです。だからこそ、指導者の一つひとつの言葉に、ものすごく影響力がある。だから、丁寧にしかも熱意があって、生徒と本気で向かい合うことが必要になってきますね。
【荒井】そうですね。生徒は本当によく僕たちを見て、いろいろなことを察していますからね。
【山田】だからこそ、本気でやらないと、見抜かれてしまう。本気と本気のぶつかりあいがないとダメだと思いますね。
●前橋育英の魅力とは
【荒井】運動部に限らず、生徒の表情がいいですね。前橋育英にくると、前向きな人間が集まって、それがいろいろなプラスアルファを生んで、将来にも良い影響を与えてくれることがたくさんあるのではないかと感じています。
【山田】自分の目標に向かって成長・進化してもらう場所が、前橋育英高校。そのサポートをしていくのが、われわれです。今後も頑張りましょう。